「大声で怒鳴る客への対応で、スタッフが辞めてしまった」「何時間も電話を切らせてもらえない」――顧客や取引先からの悪質なクレームや迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が、2026年10月1日からすべての事業主の義務になりました。

改正された労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)により、従業員を雇っている事業主は、規模にかかわらず、カスハラから従業員を守るための措置を講じなければなりません。大企業だけでなく、パートやアルバイトを1人でも雇っている小さなお店や事務所も対象です。

「うちは小さい店だから関係ない」「何から始めればいいかわからない」という中小企業や個人事業主の方も多いのではないでしょうか。対策といっても、大がかりな仕組みが必要なわけではありません。方針を決めて伝える、相談先を決める、対応の手順を決めるという基本を押さえれば、小規模な事業者でも十分に対応できます。

この記事では、カスハラ対策の義務化の内容、カスハラにあたる言動・あたらない言動の判断基準、事業主が講じるべき措置、小規模事業者が30日で整える手順、そのまま使える方針の文例、現場での対応フロー、業種別のポイント、そしてフリーランスとして働く人が知っておきたいことまで、わかりやすく整理しました。

この記事でわかること

  • 2026年10月1日に始まったカスハラ対策の義務化の内容
  • カスハラの定義と、正当なクレームとの違い
  • 事業主が講じるべき措置と、罰則の有無
  • 中小企業・個人事業主が30日で整える手順
  • そのまま使えるカスハラ対策の方針の文例
  • カスハラが起きたときの対応フローと記録のとり方
  • 飲食・小売・士業・ネットショップなど業種別のポイント
Contents
  1. カスハラ対策の義務化とは?2026年10月1日に施行
  2. カスハラとは?定義となる3つの要素
  3. カスハラにあたる言動・あたらない言動
  4. 事業主が講じるべき措置と罰則
  5. 中小企業・個人事業主が30日で整える手順
  6. カスハラが起きたときの対応フロー
  7. 現場で使える対応フレーズ例
  8. 業種別:カスハラ対策のポイント
  9. フリーランス・個人事業主が知っておきたいこと
  10. あわせて確認したい:求職者へのセクハラ防止も義務化
  11. カスハラ対策の義務化に関するよくある質問
  12. まとめ:小さな事業所こそ、従業員を守る仕組みを

Contents

カスハラ対策の義務化とは?2026年10月1日に施行

カスハラ対策の義務化の概要(2026年10月1日施行)

2025年6月に成立した改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日から、カスハラを防ぐための雇用管理上の措置が事業主の義務になりました。具体的な内容は、厚生労働省が定めた指針で示されています。

これまでも、職場のパワハラやセクハラについては、事業主に防止措置が義務付けられていました。今回の改正で、職場の外の人、つまり顧客や取引先などからのハラスメントについても、事業主が従業員を守る責任を負うことが法律で明確になったのです。

項目 内容
施行日 2026年10月1日
根拠となる法律 改正労働施策総合推進法(2025年6月成立)
対象 労働者を雇用するすべての事業主(企業規模・業種を問わない)
義務の内容 方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の適切な対応、抑止のための措置など
あわせて義務化 求職者(就職活動中の学生など)に対するセクハラの防止措置

なぜ今、義務化されたのか

背景には、カスハラの被害が広がっていることがあります。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)では、過去3年間に顧客などから著しい迷惑行為を受けたと答えた労働者は10.8%にのぼりました。企業への調査でも、パワハラやセクハラの相談が減る傾向にあるなか、カスハラだけは相談件数が増えているという結果が出ています。

カスハラは、従業員の心身の健康を損なうだけでなく、離職や人手不足の原因にもなります。特に人材の確保が難しい中小企業にとって、従業員を守る仕組みづくりは、経営を守ることにも直結します。

自治体の条例との関係

東京都では、全国で初めてのカスタマー・ハラスメント防止条例が2025年4月に施行されました。北海道や群馬県などでも同様の条例ができています。条例では、事業者の取り組みは努力義務とされていますが、今回の法改正による措置は法的な義務です。条例と法律は両方が適用されるため、条例がある地域の事業者は、両方の内容を確認しておきましょう。

なお、自治体によっては、事業者向けのマニュアルやポスター、相談窓口を用意しているところもあります。事業所のある都道府県や市区町村のホームページも、あわせて確認しておくとよいでしょう。

カスハラとは?定義となる3つの要素

カスハラの定義となる3つの要素

指針では、次の3つの要素をすべて満たすものがカスハラにあたるとされています。

  1. 顧客、取引先、施設の利用者など、事業に関係する人の言動であること:お店のお客さんだけでなく、取引先の担当者や、施設の利用者なども含まれます。対面だけでなく、電話、メール、SNS上の言動も対象です。
  2. 社会通念上許容される範囲を超えていること:要求の内容が不当な場合や、要求自体は正当でも、その手段や態様が行き過ぎている場合が該当します。
  3. その言動によって、労働者の就業環境が害されること:平均的な労働者が、働くうえで見過ごせない支障が出ると感じるかどうかが基準になります。

ポイントは、2つ目の要素が「内容」と「手段・態様」のどちらか一方でも行き過ぎていれば該当しうるということです。たとえば、商品の不具合に対する交換の要求は正当でも、大声で怒鳴り続けたり、土下座を強要したりすれば、カスハラにあたる可能性があります。

カスハラにあたる言動・あたらない言動

カスハラにあたる言動・あたらない言動の例

指針では、カスハラにあたりうる言動の例が示されています。ただし、これらは一例であり、実際には個別の状況に応じて判断されます。

分類 カスハラにあたりうる主な例
要求の内容が不当 契約内容を大きく超えるサービスの要求、代金の著しい値引きの要求、商品やサービスと関係のない損害賠償の要求、性的な要求、従業員の個人情報に関わる要求
手段・態様が不当 殴る・物を投げるなどの暴行、脅迫、中傷・侮辱・暴言、土下座の強要、大声での威圧
拘束・執拗さ 同じ質問や連絡のしつこい繰り返し、長時間の居座り、長時間の電話による拘束

正当なクレームはカスハラではない

注意したいのは、すべてのクレームがカスハラになるわけではないことです。商品の不具合やサービスのミスを指摘し、交換や返金などの妥当な対応を求めることは、正当な申し入れです。多少厳しい口調であっても、それだけでカスハラとはいえません。

また、障害のある人が、障害者差別解消法にもとづく合理的配慮を求めること自体も、カスハラにはあたりません。さらに、事業者側の不適切な対応が原因で、顧客が強い言葉を使っている場合もあります。「クレーム=カスハラ」と決めつけず、まずは内容をよく聞くことが大切です。

ケース 判断の目安
購入した商品が壊れていたので交換してほしい 正当なクレーム
交換に応じたのに、慰謝料として商品代の10倍を払えと要求する カスハラの可能性が高い(要求内容が不当)
店員の説明が不十分だったと強い口調で指摘する 正当なクレームの範囲
店員の名前や住所を聞き出し、SNSでさらすと脅す カスハラにあたる(脅迫・プライバシーの侵害)
同じ内容の電話を毎日何時間もかけてくる カスハラの可能性が高い(執拗な拘束)

事業主が講じるべき措置と罰則

カスハラ対策で事業主が講じるべき主な措置

指針では、事業主が講じなければならない措置として、主に次の内容が示されています。

  1. 事業主の方針の明確化と周知:カスハラに対して毅然と対応し、従業員を守るという方針を明確にし、管理職を含む従業員に周知する。
  2. 相談体制の整備:相談窓口をあらかじめ決めて従業員に周知し、担当者が適切に対応できるようにする。
  3. 事後の迅速かつ適切な対応:カスハラが起きたら、事実関係を確認し、被害を受けた従業員に配慮し、再発防止に取り組む。
  4. 抑止のための措置:悪質な言動への対処方針(警察への通報、取引の停止など)をあらかじめ決めて周知し、実行できる体制を整える。
  5. あわせて講じる措置:相談した人のプライバシーを守ること、相談したことを理由に不利益な扱いをしないことを周知する。

このほか、法的な義務ではありませんが、従業員への研修、顧客への理解を深める取り組み、運用状況の見直しなども望ましい取り組みとされています。

罰則はある?

措置を講じなかったこと自体に対する罰則(罰金など)はありません。ただし、厚生労働大臣や都道府県労働局長による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名が公表されることがあります。また、労働局からの報告の求めに応じなかったり、うその報告をしたりした場合は、20万円以下の過料の対象になります。

さらに注意したいのが、民事上の責任です。カスハラを放置して従業員が心身の健康を害した場合、事業主が安全配慮義務を果たしていなかったとして、損害賠償を求められる可能性があります。「罰則がないから大丈夫」ではなく、従業員を守るための最低限の備えと考えましょう。

小さな事業所も対象?

対象は、労働者を雇用するすべての事業主です。正社員だけでなく、パートやアルバイトを1人でも雇っていれば対象になります。飲食店や美容室、小売店、士業の事務所、IT企業など、業種も問いません。一方、従業員を雇わずに1人で事業をしている個人事業主は、守るべき「労働者」がいないため、この措置義務の直接の対象にはなりません。ただし、取引先として相手の従業員に接する立場では、自分がカスハラをしないよう注意が必要です。

カスハラを放置すると起こる経営上のリスク

カスハラ対策は、法律上の義務であると同時に、経営を守るための取り組みでもあります。放置した場合には、次のようなリスクが考えられます。

  • 従業員の離職:「会社が守ってくれない」と感じた従業員が辞めてしまい、採用や教育のコストが増える
  • 採用への悪影響:口コミサイトやSNSで「お客さんからのハラスメントを放置する職場」という評判が広がる
  • 生産性の低下:1件のカスハラに複数の従業員が長時間対応し、本来の業務が止まる
  • ほかのお客さまへの影響:店内で大声が続くなど、周りのお客さまの満足度も下がる
  • 法的な責任:従業員が心身の不調で休職した場合、安全配慮義務違反として損害賠償を求められる

反対に、カスハラ対策に取り組んでいることを求人情報やホームページで発信すれば、「従業員を大切にする職場」としてのアピールにもなります。人手不足の時代だからこそ、前向きな投資と考えてみましょう。

中小企業・個人事業主が30日で整える手順

中小企業・個人事業主がカスハラ対策を30日で整える手順

カスハラ対策は、大きな費用をかけなくても始められます。小規模な事業者が、まず30日で整えておきたい手順をまとめました。

1週目:方針を決めて伝える

まず、「カスハラから従業員を守る」という方針を文書にします。就業規則や社内規程に条文を加えるほか、店舗のバックヤードに掲示したり、従業員向けのチャットで共有したりして、全員が知っている状態をつくります。お客さま向けに、ホームページや店頭で方針を公表するのも効果的です。

2週目:相談窓口を決める

「困ったときに誰に相談すればよいか」を決めて周知します。新しい部署をつくる必要はありません。小さな店舗であれば、店長やオーナーが窓口になっても構いません。既存のパワハラ・セクハラの相談窓口と兼ねることもでき、社会保険労務士などの外部に委託することも可能です。

3週目:対応の手順と記録の様式をつくる

カスハラが起きたときの対応フローと、記録のための用紙(フォーマット)を用意します。紙1枚程度の簡単なもので十分です。次の章で紹介するフローを参考にしてください。

4週目:周知と振り返り

方針、相談窓口、対応フローを全員に説明し、ロールプレイなどで実際の場面を想定して確認します。運用してみて気づいた点は、定期的に見直していきましょう。従業員にとっては、「会社が守ってくれる」という安心感が何より大切です。

そのまま使える方針の文例

方針には、従業員を守る宣言、相談先、プライバシーの保護と不利益な扱いの禁止、悪質な場合の対処の4点を入れるとよいでしょう。以下は文例です。自社の状況にあわせて修正してお使いください。

カスタマーハラスメントに対する基本方針(文例)

当社は、お客さまからのご意見やご要望に誠実に対応します。一方で、社会通念上許容される範囲を超える言動により、従業員の就業環境が害される行為(カスタマーハラスメント)に対しては、従業員を守るため、組織として毅然と対応します。

1. 従業員は、カスハラを受けたときは1人で抱え込まず、責任者(窓口:○○)に相談してください。
2. 相談した人のプライバシーは守られ、相談したことを理由に不利益な扱いを受けることはありません。
3. 悪質な場合は、対応を打ち切り、サービスの提供をお断りすることがあります。暴力や脅迫などがあった場合は、警察や弁護士に相談し、法的に対処します。

カスハラが起きたときの対応フロー

カスハラが起きたときの対応フロー

実際にカスハラが起きたときは、次の流れで対応するのが基本です。

  1. 一次対応:まずは相手の話を聞き、事実を確認します。ただし、現場の従業員が1人で抱え込まないことが大切です。対応が難しいと感じたら、すぐに責任者を呼びます。
  2. 交代・引き継ぎ:責任者などが対応を代わり、被害を受けている従業員をその場から離します。
  3. 記録:日時、場所、相手、言動の内容、対応した人、対応の内容を記録します。録音や防犯カメラの映像も有効な記録になります。
  4. 判断:定義の3要素に照らして、カスハラにあたるかどうかを会社として判断します。
  5. 対処:警告、対応の打ち切り、取引の停止、警察への相談など、状況に応じて対処します。あわせて、被害を受けた従業員のケアと再発防止策を行います。

電話対応での注意点

電話でのカスハラは、長時間の拘束につながりやすいのが特徴です。「対応時間の目安(例:30分)」をあらかじめ決めておき、それを超える場合は「これ以上はお答えできかねます」と伝えて電話を終える運用が考えられます。通話を録音する場合は、「サービス向上のため通話を録音しています」といった事前の案内を流しておくのが一般的です。

記録に残しておきたい項目

  • 発生した日時と場所(店舗、電話、メール、SNSなど)
  • 相手の情報(わかる範囲で)
  • 具体的な言動(できるだけ発言をそのまま記録)
  • 要求の内容と、それに対する自社の対応
  • 対応した従業員と、交代した責任者
  • 被害を受けた従業員の状態と、その後のケア

記録は、カスハラかどうかを判断したり、警察や弁護士に相談したりするときの重要な資料になります。また、記録を積み重ねることで、どのような場面でカスハラが起きやすいかがわかり、再発防止にも役立ちます。

現場で使える対応フレーズ例

カスハラの場面では、従業員が慌てて不用意な約束をしてしまったり、感情的に言い返してしまったりすることがあります。あらかじめ決まった言い回しを共有しておくと、落ち着いて対応しやすくなります。

場面 フレーズ例
まず話を聞くとき 「ご不便をおかけして申し訳ございません。詳しくお聞かせいただけますか」
その場で判断できないとき 「私では判断いたしかねますので、責任者に代わります。少々お待ちください」
大声や暴言が続くとき 「大きな声を出されますと、お話を続けることができません。落ち着いてお話しいただけますか」
不当な要求を断るとき 「申し訳ございませんが、そのご要望にはお応えいたしかねます」
長時間の電話を終えるとき 「これ以上のご対応はいたしかねますので、お電話を終了させていただきます」
悪質な言動が続くとき 「このような状況が続く場合は、警察に相談させていただきます」

謝罪をするときは、「ご不便をおかけしたこと」への謝罪にとどめ、事実を確認する前に、自社の非や賠償を認めるような発言は避けるのが基本です。また、「上の者に確認して必ず折り返します」など、できるかどうかわからない約束をしないことも大切です。

従業員の心のケアも忘れずに

カスハラを受けた従業員は、表面上は平気そうに見えても、強いストレスを抱えていることがあります。対応が終わったあとは、責任者が声をかけて状況を聞き、必要に応じて休憩をとらせるなど、その日のうちにケアをしましょう。同じ相手からのカスハラが続く場合は、担当を外すなどの配慮も必要です。

従業員が「自分の対応が悪かったのでは」と自分を責めてしまうこともあります。カスハラは従業員個人の問題ではなく、組織として対応する問題であることを、日ごろから伝えておくことが大切です。

お客さま向けの告知文の例

店頭やホームページで、お客さまに向けて方針を伝えておくと、抑止の効果が期待できます。たとえば、次のような文面が考えられます。

お客さまへのお願い(文例)

当店では、お客さまに気持ちよくご利用いただけるよう努めております。一方で、従業員への暴言・威圧的な言動・長時間の拘束・過度な要求などがあった場合は、対応をお断りすることがございます。従業員が安心して働ける環境づくりにご理解とご協力をお願いいたします。

業種別:カスハラ対策のポイント

顧客等からの迷惑行為を受けた労働者の割合(業種別)

厚生労働省の調査では、顧客からの迷惑行為を受けた割合は、生活関連サービス業・娯楽業で16.6%、卸売業・小売業で16.0%、宿泊業・飲食サービス業で16.0%と、接客の多い業種で高くなっています。業種ごとの特徴をふまえた対策を考えましょう。

飲食店・小売店

  • 店頭やレジ付近にカスハラ対策の方針を掲示し、抑止力を高める
  • 少人数のシフトでも、すぐに責任者に連絡できる手段(電話・チャット)を決めておく
  • 防犯カメラの設置を案内し、記録を残せるようにする
  • 返品・交換のルールを明確にし、店頭やホームページで公表しておく

美容室・サロン・クリニックなどのサービス業

  • 予約の無断キャンセルや、施術後の過度な返金要求への対応ルールを決めておく
  • スタッフの個人的なSNSアカウントや連絡先を聞かれた場合の断り方を統一する
  • 口コミサイトへの悪質な書き込みへの対応方針(削除依頼、法的対応の判断基準)を決めておく

士業・コンサルティング・IT企業など

  • 契約書で業務の範囲、対応時間、連絡手段を明確にしておく
  • 契約外の作業を無償で求められた場合の対応を決めておく
  • 深夜や休日の執拗な連絡など、取引先からのハラスメントも対象になることを社内で共有する

ネットショップ・SNSでの販売

  • 問い合わせの受付時間と、回答までの目安日数を明記する
  • SNSのコメントやDMでの誹謗中傷について、ブロックや通報の基準を決めておく
  • 悪質なレビューやなりすましへの対応手順を用意する

ネットでの集客や販売についてはスモールビジネスのWeb集客完全ガイドでも解説しています。

フリーランス・個人事業主が知っておきたいこと

フリーランス・個人事業主が知っておきたいカスハラ・ハラスメント対策

従業員を雇わずに働くフリーランスや個人事業主も、取引先から理不尽な要求を受けることがあります。

フリーランス新法でも、ハラスメント対策が求められている

2024年11月に施行されたフリーランス新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)では、従業員を雇っている発注事業者に対して、フリーランスへのハラスメントを防ぐための体制整備が義務付けられています。発注者側の担当者からの暴言や、契約外の無理な要求などに困ったときは、発注事業者の相談窓口に相談できます。

また、国が設けている「フリーランス・トラブル110番」では、弁護士に無料で相談できます。1人で抱え込まず、こうした窓口を活用しましょう。

自分の身を守るための備え

  • 契約書や発注書で業務の範囲を明確にしておき、契約外の要求には応じない根拠をつくる
  • やりとりはメールやチャットなど記録が残る方法で行う
  • 対応できる時間帯や連絡手段を、あらかじめ取引先に伝えておく
  • 理不尽な取引先とは、取引を見直すことも選択肢に入れる

一方で、人を雇って事業を広げる段階になれば、今度は事業主として従業員を守る立場になります。法人化や従業員の採用を考えている人は、カスハラ対策も早めに準備しておきましょう。法人化のタイミングについては法人成りのタイミングはいつ?で詳しく解説しています。

あわせて確認したい:求職者へのセクハラ防止も義務化

2026年10月1日からは、カスハラ対策とあわせて、就職活動中の学生などの求職者に対するセクハラの防止措置も事業主に義務付けられました。面接やインターンシップ、OB・OG訪問などの場面で、採用担当者などが求職者にセクハラをしないよう、方針の明確化や相談への対応などが求められます。採用活動をしている事業者は、面接の進め方や、学生と個人的に連絡をとる場合のルールなどを確認しておきましょう。

カスハラ対策の義務化に関するよくある質問

Q. 従業員が数人の小さな店でも対応が必要ですか?

A. 必要です。パートやアルバイトを含め、労働者を1人でも雇っていれば対象になります。ただし、大企業と同じ仕組みが必要なわけではなく、方針の周知や相談先の指定など、規模に応じた対応で構いません。

Q. 対策をしていないと罰金がありますか?

A. 措置を講じなかったこと自体への罰金はありません。ただし、労働局から助言・指導・勧告を受け、勧告に従わない場合は企業名が公表されることがあります。また、報告の求めに応じない場合や虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料の対象です。

Q. 相談窓口は社外に委託してもよいですか?

A. 委託できます。社会保険労務士や外部の相談サービスなどに委託する方法もあります。既存のパワハラ・セクハラの相談窓口と兼ねることも可能です。

Q. カスハラをした客を出入り禁止にしてもよいですか?

A. 悪質な場合は、サービスの提供をお断りすることも対処の一つとして考えられます。ただし、判断が難しい場合や法的な措置が必要な場合は、弁護士に相談しましょう。暴力や脅迫がある場合は、ためらわずに警察に通報してください。

Q. 取引先からのハラスメントも対象ですか?

A. 対象です。カスハラの「顧客等」には、取引先の担当者なども含まれます。取引先から自社の従業員が不当な要求や暴言を受けた場合も、同じように対応する必要があります。

Q. SNSでの誹謗中傷もカスハラになりますか?

A. 顧客などによるSNSでの中傷やさらし行為も、従業員の就業環境が害される場合はカスハラにあたりえます。書き込みの記録(スクリーンショットなど)を残し、悪質な場合はプラットフォームへの削除依頼や、弁護士への相談を検討しましょう。

Q. 対策に使える支援はありますか?

A. 厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」やポスターなどの資料を公開しています。東京都では、中小企業のカスハラ対策を支援する奨励金(40万円)が設けられたこともあります。最新の支援策は、国や自治体のホームページで確認しましょう。

Q. 録音や録画をしてもよいですか?

A. 記録を残す方法として、録音や防犯カメラの映像は有効です。トラブルを避けるため、「サービス向上のため録音しています」などの案内を事前にしておくのが一般的です。保存期間や管理方法のルールも決めておきましょう。

Q. 就業規則がない小さな事業所はどうすればよいですか?

A. 従業員が10人未満で就業規則の作成義務がない事業所でも、方針を文書にして掲示したり、全員に配ったりする方法で周知できます。大切なのは、全員が方針と相談先を知っている状態をつくることです。

Q. カスハラ対策をすると、お客さまが離れてしまいませんか?

A. カスハラ対策は、正当なご意見やご要望を拒むものではありません。多くのお客さまにとっては、従業員が落ち着いて働ける店のほうが、安心して利用できる店でもあります。方針を公表するときは、「ご意見には誠実に対応します」という姿勢もあわせて伝えると、誤解を防げます。

まとめ:小さな事業所こそ、従業員を守る仕組みを

この記事のまとめ

  • 2026年10月1日から、カスハラ対策がすべての事業主の義務に
  • パート・アルバイトを1人でも雇っていれば、規模や業種を問わず対象
  • カスハラは「顧客等の言動」「社会通念上の範囲を超える」「就業環境が害される」の3要素で判断
  • 正当なクレームや合理的配慮の求めは、カスハラではない
  • 方針の周知、相談窓口、事後対応、抑止策などの措置が必要
  • 罰金はないが、勧告・公表、過料、損害賠償のリスクがある
  • まずは30日で「方針・窓口・対応フロー・記録」を整えよう

人手不足が続くなか、従業員が安心して働ける環境をつくることは、人材の定着と事業の継続に欠かせません。カスハラ対策は、お客さまを遠ざけるためのものではなく、正当な声には誠実に応え、行き過ぎた言動からは従業員を守るための仕組みです。小さな事業所でも、方針を決めて共有するところから、今日から始めてみてください。

※本記事は2026年10月時点の法令・指針や公表情報にもとづいて作成しています。カスハラにあたるかどうかは個別の事情によって判断されます。具体的な対応については、都道府県労働局や社会保険労務士、弁護士などの専門家にご相談ください。