算定基礎届とは?仕組みと賢い対応の仕方を徹底解説!
算定基礎届とは
**算定基礎届(さんていきそとどけ)**とは、会社が従業員の社会保険料を毎年見直すために提出する書類です。
ここで決まるのは、健康保険料・厚生年金保険料などの計算基礎になる標準報酬月額です。
ざっくりいうと、
4月・5月・6月に支払った給与を平均して、
9月から翌年8月までの社会保険料を決める手続き
です。会社が7月に日本年金機構へ提出します。2026年度は、2026年7月1日から7月10日(金)までが提出期間です。
なぜ重要なのか
この届出で決まる標準報酬月額は、単に毎月の社会保険料だけでなく、将来的には以下にも関係します。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 傷病手当金
- 出産手当金
- 将来の厚生年金額
- 雇用保険とは別ですが、給与設計全体の手取り感
社会保険料は原則として会社と本人が半分ずつ負担するため、標準報酬月額が上がると、従業員の手取りだけでなく会社負担も増えます。
何を基準に計算するのか
原則、4月・5月・6月に実際に支払った給与を使います。
例えば給与が月末締め・翌月25日払いなら、
- 4月25日に支払った給与
- 5月25日に支払った給与
- 6月25日に支払った給与
の3か月分を見ます。
「4月に働いた分」ではなく、基本的には4〜6月に支給した分で見る点がポイントです。
通常は、支払基礎日数が17日以上ある月の給与を使って平均を出します。特定適用事業所の短時間労働者は11日以上が基準です。
算定対象に含まれるもの・含まれないもの
含まれやすいもの
以下は原則として「報酬」に含まれます。
- 基本給
- 役員報酬
- 残業代
- インセンティブ、歩合給
- 営業手当
- 役職手当
- 住宅手当
- 家族手当
- 通勤手当
- 食事代補助などの現物給与
特に見落としやすいのは、通勤手当も社会保険上は原則として報酬に含まれることです。
原則として含まれないもの
- 年3回以下の賞与
- 結婚祝金、慶弔見舞金
- 出張旅費などの実費弁償
- 退職金
- 業務に必要な立替経費の精算
ただし、「賞与」という名前でも毎月支払われるものや、年4回以上支払われるものは給与扱いになることがあります。名称ではなく、実態で判断されます。
誰が対象か
原則として、7月1日時点で社会保険に加入している全従業員・役員が対象です。
正社員だけでなく、社会保険に加入しているパート・アルバイトも対象になります。
一方、次のような人は原則として算定基礎届の対象外です。
- 6月1日以降に社会保険へ加入した人
- 6月30日以前に退職した人
- 7月に月額変更届を提出する人
- 8月または9月に随時改定予定として扱う人
このあたりは給与変更のタイミングと重なるため、対象者判定を間違えやすいです。
賢い対応の仕方
ここでいう「賢い対応」は、社会保険料を不自然に下げることではなく、制度を正しく理解し、無駄な負担・届出漏れ・後日の追徴を避けることです。
1. 4〜6月だけを見て給与をいじらない
よくあるのが、
「4〜6月の残業を減らせば社会保険料を下げられる」
という考え方です。
確かに、4〜6月の残業や歩合が多ければ標準報酬月額が上がる可能性はあります。ただし、社会保険料を下げる目的だけで残業代や歩合の支払いを不自然に後ろ倒しにすると、賃金支払のルールや労務管理上の問題になり得ます。
賢い考え方は、次のようなものです。
- 恒常的な残業を減らす
- 業務量を平準化する
- インセンティブ制度を年間で整える
- 一時的な繁忙を特定月に集中させない
- 給与規程と実際の運用を一致させる
つまり、4〜6月だけ操作するのではなく、年間を通して健全な給与設計にすることです。
2. 役員報酬は「定期同額」と社会保険をセットで考える
経営者・役員の場合は特に重要です。
役員報酬を上げると、
- 法人の利益は圧縮されやすい
- 個人所得は増える
- 所得税・住民税が変わる
- 社会保険料も上がる
- 会社負担の社会保険料も増える
という動きがあります。
役員報酬は、税務上も原則として毎月同額にする必要があるため、社会保険料だけを見て途中で細かく上下させると、税務・労務の両面で扱いが難しくなります。
役員報酬は「税金+社会保険料+会社利益+資金繰り」で年単位の設計をするのが賢いやり方です。
3. 給与データの「報酬漏れ」を先に潰す
算定基礎届で多いミスは、金額の計算ミスよりも「何を報酬として入れるか」の判断ミスです。
特に確認したいのは以下です。
- 通勤手当が入っているか
- 住宅手当や役職手当が漏れていないか
- インセンティブ、歩合、残業代が反映されているか
- 役員報酬の変更が給与台帳に正しく反映されているか
- 現物給与や食事補助の扱いを誤っていないか
- 休職・欠勤・育休・時短勤務の人を通常計算していないか
- 退職者・新規入社者・月額変更届対象者を混在させていないか
届出後に誤りが発覚すると、保険料の追加徴収や返金対応、従業員への説明、給与ソフトの修正など、地味にかなり面倒です。
4. 昇給・降給がある人は「月額変更届」を必ず確認する
算定基礎届は年1回の見直しですが、給与に大きな変更があった場合は、途中でも月額変更届が必要になることがあります。
典型例は、
- 基本給を上げた・下げた
- 役職手当を新設・廃止した
- 固定残業代を変更した
- 勤務日数や所定労働時間を変更した
- 歩合給から固定給へ給与体系を変更した
などです。
固定的賃金が変わり、その後3か月の平均給与が従前の標準報酬月額と比べて2等級以上変動するなど、一定要件を満たすと随時改定の対象になります。残業代だけの増減は原則として固定的賃金の変動ではありませんが、固定給変更後の3か月平均には残業代も含まれます。
5. 年間平均による特例を検討する
4〜6月だけ繁忙期で残業や歩合が極端に増える会社では、通常の4〜6月平均で決めると、実態より高い標準報酬月額になるケースがあります。
その場合、一定要件を満たせば、年間平均による保険者算定の申立てが使える可能性があります。
たとえば、
- 4〜6月が繁忙期で残業が恒常的に多い
- 季節要因で特定月だけ歩合が跳ねる
- 毎年、特定シーズンだけ手当が増える
- 年間平均と4〜6月平均の差が大きい
という場合です。
ただし、単に「保険料を下げたい」だけでは使えません。年間の給与実態と比較し、要件に沿って申立書や同意書を整える必要があります。日本年金機構も年間平均による算定用の申立書・比較資料を用意しています。
6. 従業員への説明を先にしておく
9月以降、従業員の給与明細を見て、
「給料は変わっていないのに、社会保険料が増えている」
という問い合わせは毎年出やすいです。
会社としては、事前に次のような一文を共有しておくとかなり楽です。
毎年4月〜6月に支給された給与をもとに、9月分以降の社会保険料が見直されます。残業代・手当・通勤手当等を含めた平均額により保険料が変動する場合があります。
特に営業職、歩合職、繁忙期のある職種では、説明しておくと不信感を防げます。
会社側の実務チェックリスト
提出前に、最低限ここだけ確認すると事故が減ります。
- 7月1日時点の社会保険加入者を一覧化する
- 4月・5月・6月の支給額を給与台帳と照合する
- 支払基礎日数を確認する
- 通勤手当・残業代・歩合・各種手当を漏れなく含める
- 6月以降の入社者、6月末以前の退職者を除外する
- 月額変更届の対象者を確認する
- 役員報酬の変更履歴を確認する
- 一時的な繁忙で給与が偏った人は年間平均特例を検討する
- 提出後の標準報酬決定通知書を給与ソフトへ確実に反映する
- 9月分保険料から控除額が変わることを経理・給与担当へ共有する
2026年度は7月10日(金)までに提出です。電子申請、電子媒体、郵送、窓口持参が利用できますが、電子申請は処理や証跡管理の面で比較的扱いやすいです。